通称・恍惚のえやみぐさ ② 口上

 

口上

 

 

 

 初めまして。私の名は石刃孔雀という。

 

 私の名を覚える必要はないが、本題に入る前に、一つだけお話ししなければならないことがある。

 

それは、私の持つ目と耳の話だ。

 

とある事情があり、実は私の左目は義眼なのだが、その義眼が少々特殊なのだ。

 

千里眼という言葉を聞いたことがあるだろうか?

 

そう、その場にいながら、千里先を見通せるというあれだ。何を隠そうこの義眼こそが千里眼なのだ。しかも、私の場合は、透視も可能で、それは物体を透かして中身を見るというだけでなく、人や動物、ときには物体の気持ちすら透かして見ることができる。元々は鬼が持っていると言われている神秘的な力だ。

 

話が唐突で申し訳ないが、騙されたと思って読み進めて欲しい。

 

 左耳について。こちらは、どこにいても世界のあらゆることを聞き、知ることができる順風耳と呼ばれる耳を持っている。これも鼓膜も含めて義耳である。順風耳も千里眼ほど有名ではないが、鬼が持つと言われる能力だ。

 

 私がこの目と耳を持つに至った経緯に関しては、実際に鬼や女神が出てきてしまい、にわかには信じられない話になってしまう。そうなった場合、これから私が書き記す物語の信憑性が格段に減少する危険を孕むので割愛させていただきたい。生い立ちを含む私に関する話はまた別の機会に話そう。

 

 ここでは私が千里眼と順風耳を有することだけをとりあえず理解しておいてほしい。

 

生い立ちは別の機会に話すが、少しだけプロフィールを話しておこう。

 

私は東京都の多摩地区にある小さな街に住んでいる。この目と耳のせいで人ごみが苦手で、都会がどうしても好きになれないのだ。恥ずかしながら新宿と渋谷で一度ずつ気を失ってしまったこともある。なので、この長閑でありながら、都心にもすぐに出られるこの場に生活の場を移したのだ。

 

大抵は部屋で音楽を聞きながら、この千里眼と順風耳で見て聞いて知った誰かの姿を小説という形で記録する毎日を送っているのだが、人の目に触れないように注意しているので、あなたも私の事なんて知らないだろう。

 

今回、たまたまあなたの目に触れたのは、幸か不幸かはわからないが、稀有な例だと思っていただきたい。

 

そもそも私は生活のために小説を書いているのではなくて、この目と耳を持つ者の宿命として、この記録を“あるお方”に捧げているに過ぎないのだ。それが誰かは口が裂けても言えない。ただ、小説だけでなく、命すら捧げているということは言っても差し支えないだろう。

 

そうなのだ。私はただの操り人形でしかないのだ。いつ消え去ってしまうかもわからないマリオネット。ただただ、この千里眼と順風耳で見て聞いて知った物語を自動書記する機械仕掛けの狂言回し。それが私、石刃孔雀の正体だ。

 

ああ、話がそれた。このまま話し続けると、先ほど言ったように鬼や女神が出てきてしまう。そうなってしまってはよろしくない。

 

そろそろ、話を本題に移そう。

 

 あるお方の指令で、ずっと見ていた人間がいる。

 

今日は彼のことを書き記そう。

 

 本来なら誰の目にも触れてはいけない禁断の愛の物語。

 

 しかし、今回は特別だ。

 

 このあまりにも救いようのない物語に対し、あなたの意見が聞いてみたいと思ってしまったのだ。

 

それは許されることでないかもしれないが、今回の物語に関しては狂言回しに徹することがどうしてもできなかった。もしかしたらあのお方のお怒りを買ってしまうかもしれない。それでもかまわない。禁忌に触れることを覚悟し、トリックスターとして物語に参加させてもらう。

 

これは、聞く者によれば悲しくて、救いようのないだけの話に聞こえるかもしれない。教育上もよろしくはないだろうから、あなたにお子さんがいるのなら手の届かないところに隠してくれ。そうだな。シンクの下あたりならば子供も開けはしないだろう。

 

 これは愚者と愚者が出会う愚かな物語だ。意味すら持たない悲劇だ。

 

しかしながら、そういった物語にこそ救いを見出す必要があるのではないかと思うのだ。いや、見出して欲しいのだ。だって、戦争然り、飢饉然り、世界はそもそも救いようがないのだから。

 

 あれは鈴虫の声が聞こえ始めた秋の夜長だった。

 

千里眼で世界を覗いていると、一人の少年が目に留まった。

 

河川敷の土手沿いの手入れの行き届いていない芝生の上。

 

 まだ幼さの残る色白の少年の横顔に返り血で赤い水玉模様ができた瞬間だった。

 

 少年は、四つん這いのような恰好で激しい嗚咽を繰り返している。

 

 彼の下に横たわるのは、さらに小さな少女の亡骸だ。

 

 少年の名はオト。

 

本名ではない。彼の本名を晒すことは憚られる。なにせこれはある有名な事件の一場面なのだ。名を晒すことで、被害者、加害者共に特定されてしまう可能性があり、そうなってしまうと関係のない親類や家族にまで被害が及ぶ時代だ。ご理解いただきたい。さらに、本名を語れないもう一つの理由がある。それは実際のところ本名があるかどうかも疑わしいからなのだが、その詳細はすぐに話せると思うので、ここでは語らない。

 

 物語はこの十年後から始まる。

 

 さあ、そろそろ開演の時間だ。

 

最新作だ!

 

準備はいいか?

 

声が聞こえねぇぞ?

 

おめぇら気合入ってのんか!

 

よし、いくぞ!

 

読んでくれ!

 

「外題・竜胆恨愛華! 通称・恍惚のえやみぐさ!」

 

 

 

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